田辺剛『温泉に行くんじゃない演劇をするんだ』

 今回劇作家大会に、アーティスト・イン・レジデンス(以下、AIR)という企画があるのはご存知かと思うのですが、わたしもAIRの企画で京都から参加します。ちょうど6月の最終週に公演をする作品がありまして、その試演会と銘打って、城崎での稽古とショーイングを行おうということで伺います。
 想像に難くないところですが、出演者らに城崎で滞在と言うと、温泉だ温泉だとざわつきます。もちろん稽古は夕方までなので、夜は温泉に行こうがなにしようが自由なのですが、締めるところは締めておかねばと演出家(わたしではありません)と相談して試演会の内容など詰めたいと考えています。とはいえ、試演会の当日に、可能性といいますか考えられるのは、むしろほんわかした客席です。若干湯気が立ち上がっているような、浴衣に下駄の客で最前列が埋まっているような、そんな緩い客席であったらどうでしょう。
 今回、城崎に持っていくのは観客を笑わせてナンボみたいなものではなく、客の想像を舞台に引きずり込んだところで成り立つような(要は観客の集中力が必要な)作品なので、客席がほんわかしていると厄介ではあります。舞台と客席の空気の密度差が違いすぎて。しかし、そのくらい遠いところにいる観客をいかにして劇世界に引っ張っていくのか、試してみる価値はあります。それがうまくいけば、どんなところでの上演にも耐えうる作品になるでしょうから。
 良い機会だと思っています。ぜひ皆さんにもお越しいただけたらと思います。

[一般社団法人に本劇作家協会 会報「ト書き」52号より]

アトリエ劇研プロデュース『舟歌は遠く離れて』