松枝佳紀『こうのとり短編戯曲賞』

 ある土地の魅力を伝えるときに、「**の滝」やら「**の湯」やら「名物**弁当」やらをたいがいの場合引き合いに出しますが、しかしそうした代物を引き合いに出したが最後、相当がんばらないと、旅行ガイドに負けてしまうでしょう。
 さて、この度「こうのとり短編戯曲賞」を企画しました。豊岡あるいは城崎温泉の魅力を6人の作家に体験してもらった上で戯曲化してもらい、それをリーディング公演にして一般観光客などに街角で見せ、投票によって一番を決めるというヘンテコリンな戯曲賞です。
 この賞、「ある土地の魅力を劇作家が紹介するとこうなる」という見本のような賞になればいいなと思っています。たとえば、始終あくびをしているひなたの三毛の猫。たとえば、毎日早起きをして街角の地蔵を丁寧に磨く無口な媼。たとえば、にぎわう通りの裏側に転がるいわくありげなピンポン玉などなど。そういった決して観光ガイドに取り上げられないようなモノや人やなにものかが、劇作家というフィルターを通すことで観光名所や名物よりもキラキラ光を放って人の心に迫る。そんなことがあるんだと一般の人々に知ってもらいたいと思っています。
 そして、そんな劇作家の視点やら手腕やらに驚き感動しながら、旅行客が、温泉につかり、浴衣で散策をし、至れり尽くせりの旅館で蟹三昧を味わい、疲れをいやす。今回の劇作家大会が、そんな素敵なイベントになればいいなと思っています。

[一般社団法人日本劇作家協会 会報「ト書き」52号より]

こうのとり短編戯曲賞+街角リーディング