赤澤ムック『豊岡から生まれる戯曲』

 こうのとりのように新たな文化を産み運ぶことを目的とした “こうのとり短編戯曲賞” の滞在取材で、四月頭の豊岡を訪れた。
 全国から百作品以上の応募があった中、選ばれた最終候補者は六名。顔ぶれは多彩で、東京や大阪で活躍する者もいれば、戯曲初挑戦の豊岡市在住者もいる。
 この戯曲賞の面白いところは、規定に「豊岡にまつわる題材で、この地を訪れて書く事」とある事だ。早速私達は、各題材の取材対象者の話を聞きに向かったり、温泉滞在者として地元の方々とお話をしたり。旅館に戻って各々が取材成果を語り合う。
 取材対象は様々で、地元で生きる広い年代の女性達、麦わら細工、高等学校同窓会、北但大震災、柳行李、かつてあったヌード劇場…。文献やインターネットで調べただけの情報と、生で見聞きする物とでは重みがまるで違う。自分の脳内だけに在った物語が、豊岡の力を借りて豊かに彩られていくのだ。
 滞在二日目は候補者の皆で、温泉街にある蕎麦屋『ますや』のご主人から地域の歴史について教えて頂いた。お話を聞き終え、かつて城崎温泉に逗留していた文化人達に思いを馳せる。
 なるほど、この土地には物語を生む土壌がある。
 六月十二日から、これらの戯曲は城崎温泉の街角で無料朗読公演を行い、観客の投票で最優秀作品が決まる。豊岡でどんな戯曲が生まれたか、豊岡の皆様にぜひご覧になっていただきたい。

[5月10日発行の広報とよおか第218号より]

こうのとり短編戯曲賞+街角リーディング